ファッション界に君臨するカリスマであり、アメリカ『VOGUE』の編集長。
ファッションショーでは常に最前列の最もいい席につき、トレードマークのボブカットにサングラス、完璧なファッションで彼女が現れると、モデルやデザイナー以上の注目を浴びる。
アナ・ウィンター、一編集長として、これ以上ないほどの地位を築き上げた女性である。
http://www.observer.com/people/anna-wintour
好評を集めた映画『プラダを着た悪魔』で、メリル・ストリープが演じた女性編集長ミランダは、アナ・ウィンターその人がモデルとされている。
原作の作者は実際にアナの下で働いた経験があり、発表当時は暴露本として話題を呼んだ。気まぐれで女王のように振る舞い、部下のファッションにも厳しいのはもちろん、ハリー・ポッターの未発売の原作を手に入れてこさせるなど無理難題を強い、彼女が気に入らなければ有名ブランドのデザイナーもコレクションを一変させてしまうほどの影響力を持つ。
映画がすべて真実ではないにしろ、彼女の部下に対する女王ぶりや、ファッション界における絶大な地位はアナ・ウィンターそのものだといわれている。
英国に生まれ、『ハーパース&クィーン』や『ハーパース・バザー』を経て、83年には米国版『VOGUE』のクリエイティブ・ディレクターとなり、86年にはいったん英国に戻って保守的であった英国版『VOGUE』を一躍トレンド誌に変身させると、88年には再び米国版『VOGUE』の編集長に。
一見順調に見えるキャリアだが、常に自らのスタイルを貫き、理想を追い求めたため、若い頃は上司と衝突してクビにされたこともあるという。
乳がんの紹介記事で予定されていた航空会社の客室乗務員から、より社会的地位のあるビジネスウーマンに変えたとか、有名な司会者を表紙に起用するにあたり減量させたことや、ヒラリー・クリントンの衣装に文句をつけるなど仕事へのこだわりから生じた傍若無人なエピソードは数多い。毛皮のファーを紹介しつづけることで、動物愛護協会からも厳しい非難を浴びている。
だが、それだけではカリスマ性は得られない。
スタジオでつくりあげられたファッションだけでなく、仕事もプライベートも充実し、プライドとお金、そして都会的な感性を持った現代女性のリアルな美しさを抜群のセンスで誌面にし、信奉者といえる女性読者を勝ち得て膨大な広告収入も実現させた実力者だ。
シャネルなどのデザイナーを務めるカール・ラガーフェルドは、「彼女は常に自分に正直なだけ」とコメントしている。若手デザイナーを発掘して支援し、ファッション誌のあり方だけでなく、ファッション業界そのもののレベルを高めた功績は大きい。
『プラダを着た悪魔』については、「自分のことではない」と語ったそうだが、彼女がそのすべてをファッションとファッション誌に捧げている点では同じだ。彼女こそ美を創造し、自ら体現してきたファッション界の究極のビューティスタなのである。